腋窩多汗症(脇の汗)とは
腋窩多汗症は、脇の下から過剰な量の汗が出る状態を指します。この症状は「腋臭症(ワキガ)」とよく混同されますが、実際には異なる疾患です。
腋窩多汗症で問題となるのは、エクリン腺から分泌される汗の量が異常に多くなることです。エクリン腺は体のほぼ全体に分布している汗腺で、そこから出る汗は水のようにさらさらしています。一方、ワキガの原因となるアポクリン腺は、脇の下や下腹部などに限定して存在し、脂質性の分泌物が不快な臭いのもととなります。
脇の汗が多く、衣服の脇の部分だけが濡れるような状態で、鼻を突くような強い臭いがなければ、多くの場合は腋窩多汗症と考えられます。発汗量が増えると、汗が皮膚の細菌により分解されて多少の臭いは生じますが、これは一般的に「汗くさい」と呼ばれる程度のものです。
日本人の約20人に1人が発症していると報告されており、珍しい疾患ではありません。しかし、体質の問題と思い込み、治療を受けずに悩んでいる方が多いのが現状です。
腋窩多汗症の原因は?
腋窩多汗症の明確な発症メカニズムは解明されていない部分が多いものの、自律神経系の調節異常が主な要因として指摘されています。
遺伝的な素因に加えて、日常的なストレスや生活環境の影響により、体内のホルモン調節に変化が生じることがあります。これらの要因が複合的に作用して自律神経系のバランスが乱れ、結果として局所的な過剰発汗を引き起こすと考えられています。
腋窩多汗症の症状
~脇汗が流れ落ちる~
腋窩多汗症の主な症状は、脇の下からの過剰な発汗です。脇の下は暑さと精神的緊張の両方で発汗が生じる部位ですが、暑さや緊張がない場面でも多量の汗が出ることが問題となります。
衣服に汗が染み込んで目立つため、上着を脱げない、汗が目立ちやすい色の服を着ることができないといった悩みが生じます。日常生活において着たい服が着られなかったり、他人の目が気になってしまったりと、社会生活に支障をきたすことがあります。
腋窩多汗症の方の中には、手のひらや足の裏の発汗量が多い手掌多汗症を併発している場合もあります。それぞれの部位の症状の程度に応じて、適切な治療法を選択することが重要です。
腋窩多汗症の診断
原発性腋窩多汗症は、日本皮膚科学会のガイドラインに基づいて診断されます。
明らかな原因がないまま、6ヶ月以上、過剰な脇汗をかき続けている場合で、以下の項目のうち2つ以上に該当する場合に診断されます。
- 最初の症状が出たのが25歳以下である
- 左右両方で同じような発汗が見られる
- 睡眠中は発汗が止まっている
- 1週間に1回以上多汗の症状が出る
- 家族にも同じ疾患の方がいる
- 脇汗によって日常生活に支障をきたす
これらの基準にて診断を行い、症状の重症度を判定したうえで、適切な治療方針を決定します。
腋窩多汗症の治療
腋窩多汗症の治療には、症状の程度や患者様の希望に応じて、さまざまな選択肢があります。
外用薬
抗コリン薬という薬を用います。エクリン汗腺への発汗指令を阻害することで汗を抑えます。毎日塗布することで効果を発揮します。
保険適用外ですが、簡便で侵襲が少ない塩化アルミニウムローションの処方も可能です。
内服薬
プロバンサインという抗コリン薬を使用する場合があります。どの部位の多汗症にも使用でき、夏期のみ服用する方もいます。便秘や口の渇きなどの副作用が出る場合があります。
ボトックス注射
ボツリヌス毒素を両脇に注射する治療法です。神経から放出される伝達物質を抑制し、発汗を抑えます。効果は約3~6ヶ月持続し、特に汗が気になる夏前の治療が推奨されます。
日常生活に頻繁に支障があるような重症の場合には、保険適用となります。片方の脇に約20回の注射を行うため、冷却により痛みを軽減しながら施術を行います。
外用薬で効果が不十分な場合に、ボトックス注射を検討します。15歳以下の患者様は外用薬のみの治療となり、妊婦や前立腺疾患がある方は、ボトックス注射を行うことはできません。






