手掌多汗症(手汗)とは
手掌多汗症は、手のひらの発汗が異常に多くなる疾患です。温度が高い時や精神的な緊張を感じた時だけでなく、涼しい環境でリラックスしている時でも、手のひらから大量の汗が出るのが特徴です。
症状の程度は人によって異なり、手のひらが少し湿る程度の軽症から、汗が滴るほど重症な場合まであります。手のひらと足の裏の両方に汗をかくことから、掌蹠(しょうせき)多汗症と呼ばれることもあります。
多くの場合、小学生や中学生の頃に他の人より手のひらに汗をかきやすいことに気づきます。基本的には生まれつきの体質によるもので、日本人の約5%、つまり20人に1人程度が手掌多汗症であるとされています。汗腺自体には異常がなく、手をつかさどる交感神経の過剰な働きが関与していると考えられています。
通常、交感神経は必要な時にのみ汗腺に作用しますが、手掌多汗症では常に交感神経が活発になっているため、過剰な発汗につながります。
手掌多汗症の原因は?
手掌多汗症の根本的な原因は完全には解明されていませんが、手を支配する交感神経が過度に活発になることが主な要因として指摘されています。
交感神経は汗腺に作用して発汗を促す役割を持ちます。精神的な緊張やストレスを感じた時、この交感神経が活発になって異常な発汗が引き起こされます。「手に汗握る」という言葉があるように、精神性発汗として現れることがあります。
手掌多汗症自体が遺伝することはないとされていますが、交感神経が活発であるという体質が遺伝し、発症リスクが高くなる可能性があります。緊張しやすい人やストレスを感じやすい人に多く見られる傾向があります。
ほとんどは生まれつきのもので、小中学生の時期に自覚されることが多いですが、成人してからストレスをきっかけに症状が現れるケースもあります。
手掌多汗症の症状チェック
~手汗がひどい~
- 季節や気温、運動の有無に関係なく手汗をかく
- 手汗でノートや書類が濡れてしまう
- スマートフォンの操作がしにくく、画面が濡れる
- ハンドタオルが手放せない
- 人と手をつなぐことに抵抗を感じたり、申し訳なく思う
日常生活での困りごとは多岐にわたります。ピアノの鍵盤やパソコンのキーボードが汗で濡れる、文字を書く時に紙が濡れるため手を浮かせる必要がある、握手をすることに抵抗がある、といった悩みが生じます。
手のひらの皮膚がふやけたり、箸やスプーンが滑ったりすることもあります。緊張すると手汗のことが気になってしまい、さらに汗が増えるという悪循環に陥ることも少なくありません。
手掌多汗症の診断
手掌多汗症は、日本皮膚科学会のガイドラインに基づく診断基準により診断します。
過剰な手のひらの発汗が明らかな原因のないまま6ヶ月以上続いており、以下の項目のうち2つ以上に該当する場合に手掌多汗症と診断します。
- 最初に症状が出るのが25歳以下であること
- 左右対称性に発汗が見られること
- 睡眠中は発汗が止まっていること
- 1週間に1回以上多汗の症状があること
- 家族に同じ疾患が見られること
- 発汗によって日常生活に支障をきたすこと
問診による診断のほか、発汗の程度を客観的に評価するため、ヨード紙法、重量計測法、換気カプセル法などの検査を行うこともあります。
手掌多汗症の治療
~手汗を止める方法~
手掌多汗症の治療法は、症状の程度や患者様のライフスタイルに応じて選択されます。
外用薬
アポハイドローション20%という塗り薬を用います。2023年6月に発売された日本初の保険適用の手掌多汗症治療薬です。就寝前に手のひらに塗布し、朝に洗い流すという簡単な使用方法で、12歳から使用可能です。交感神経から放出される神経伝達物質の放出を阻害することで発汗を抑制します。
塩化アルミニウムローションも使用することがあり、汗を出す管を閉塞させることで発汗量を抑えます。
内服薬
プロバンサインなどの抗コリン薬を服用することで、全身の発汗を抑制できます。口の渇きや便秘などの副作用が出ることがありますが、必要な時期だけ服用することも可能です。
ボトックス注射
手のひらにボツリヌス毒素を注射し、交感神経を一時的に麻痺させることで発汗を抑制します。効果は3~6ヶ月程度持続し、注射後すぐに日常生活に戻ることができます。ただし、手掌多汗症への使用は現在のところ保険適用外となっています。
イオントフォレーシス
水を入れた専用容器に手を浸し、弱い電流を流す治療法です。水素イオンが汗腺細胞に作用して発汗を抑える効果が期待できます。週に1~2回の通院が必要ですが、低リスクで継続的な治療が可能です。






