疥癬とは
疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニという小さな寄生虫が皮膚の角質層に寄生することで発症する感染症です。このダニは肉眼では見えないほど小さく、体長は約400μm(0.4mm)程度です。皮膚に住みついたヒゼンダニやその糞、抜け殻などに対する体のアレルギー反応により、強いかゆみや皮膚の炎症が起こります。特に夜間や暖かい場所でかゆみが強くなる傾向があり、睡眠を妨げるほど激しいかゆみを訴える方も少なくありません。
疥癬は人から人へ感染する疾患で、直接的な肌の接触や、寝具・衣類を介した間接的な接触でも感染する可能性があります。特に抵抗力が低下した高齢者の方に多く見られ、高齢者施設などで集団発生することがあるため注意が必要です。
疥癬には「通常疥癬」と「角化型疥癬(ノルウェー疥癬)」の2つのタイプがあり、寄生するダニの数や症状、感染力に違いがあります。
疥癬の原因は?うつる?
感染経路について
疥癬の原因となるヒゼンダニは、皮膚の表面に穴を掘り、角質層にトンネル(疥癬トンネル)を作って生活します。このトンネル内で1日に2~4個の卵を産み、卵は3~5日で孵化し、10~14日で成虫になります。
通常疥癬
体に寄生しているダニの数は10匹程度と少なく、長時間の肌と肌の直接接触により感染が広がります。握手程度の短時間の接触で感染することは稀ですが、介護などで長時間・頻繁に素手で接触したり、保育園での雑魚寝や添い寝など同じ寝具で寝たりすることで感染する可能性があります。
角化型疥癬
体に寄生するダニの数が100~200万匹と非常に多く、感染力が強いのが特徴です。短時間の接触でも感染し、剥がれ落ちた角質(垢)にも多くの生きたダニが含まれているため、直接の接触がなくても、シーツに付着したダニに触れるなどの経路で感染することがあります。
感染から発症までの潜伏期間は通常1~2ヶ月ですが、角化型疥癬から感染した場合は、より早く症状が現れることがあります。
疥癬はどんな人がなる病気?
疥癬になりやすいのは、主に高齢者の方です。加齢により免疫力が低下していることに加え、皮膚が薄く乾燥しやすくなり、皮膚のバリア機能が低下していることが理由として挙げられます。
高齢者施設などの共同生活の場では、人と人との接触機会が多いため、感染が広がりやすい環境にあります。また、感染者との接触機会が多い介護士や看護師などの医療従事者も感染リスクが高いとされています。
その他、ステロイドや免疫抑制剤を使用している方など、免疫機能が低下している方も感染しやすい傾向があります。
疥癬の症状チェック
疥癬の症状は、通常疥癬と角化型疥癬で異なります。
通常疥癬
- 虫刺されのような赤いぶつぶつ(丘疹)が腹部、胸部、足、腕などに現れる
- 手の指の間や側面に白い線状の発疹(疥癬トンネル)が見られる
- 陰部に赤いブツブツが現れることがある
- 特に夜間に強いかゆみがある
- かき過ぎにより小さな水疱やかさぶた、潰瘍ができることがある
寄生したヒゼンダニの抜け殻や糞によるアレルギー反応で強いかゆみが生じます。疥癬トンネルと呼ばれる白い線状の発疹は、疥癬の診断において最も特徴的な症状です。
角化型疥癬
- 皮膚がざらざらと厚くなり、かさぶたのような状態になる
- 手足、おしり、肘、膝などに牡蠣の殻のような灰色~黄白色の厚い角質が付着する
- 爪が厚くガサガサになる
- かゆみがない場合もある
角化型疥癬では厚くなった皮膚を中心に非常に多くのヒゼンダニがいますが、かゆみは軽いことが特徴です。そのため見逃されやすく、高齢者施設などでは集団感染の原因となることがあります。
疥癬を放置するとどうなる?
疥癬は自然に治ることはありません。放置すると原因となるヒゼンダニが活動を続けるため、かゆみや赤いぶつぶつ、角質の増殖などの症状が悪化していきます。
ダニの数が増えるにつれて、他人への感染リスクも高まります。特に角化型疥癬の場合は感染力が強いため、家族や介護者への感染が広がる危険性があります。
症状が進行すると、激しいかゆみにより皮膚をかき壊し、二次感染を起こすこともあります。また、睡眠不足や日常生活への支障も大きくなるため、早期の診断と治療が重要です。
疥癬の治療
疥癬の治療は、まず正確な診断を行うことから始まります。皮膚の一部を採取し、顕微鏡でヒゼンダニや卵を確認したり、ダーモスコープという特殊な器具で観察したりして診断します。
疥癬と診断された場合はヒゼンダニを駆除するための内服薬(イベルメクチン)や塗り薬を使用します。かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬を併用してかゆみを抑えます。
治療期間は通常1ヶ月程度(角化型疥癬では2ヶ月程度)ですが、治療後もかゆみが残ったり再発したりすることがあるため、数ヶ月は経過観察が必要です。
日常生活では、毎日入浴して清潔を保ち、下着や寝間着は毎日交換します。寝具や衣類は50℃以上のお湯に10分以上浸してから洗濯し、ヒゼンダニを死滅させることが重要です。






